WIKITOPIA — VISION

WIKIPEDIAのように、「みんな」で街をつくれるか?

Wikitopia Project(ウィキトピア・プロジェクト)は、情報技術をはじめとした先端的な科学技術を活用することで、ウェブ上の百科事典Wikipediaのように「みんな」でつくる未来の都市を実現することを目指す研究プロジェクトです。計算機科学者の竹内雄一郎が代表を務め、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 京都研究室を中心とした組織横断型のプロジェクトとして2017年より活動しています。情報工学・電子工学・都市工学・建築学・政治学など幅広い分野の知見を総合した学際的な研究を行い、また研究成果を迅速に社会変革へとつなげるべく、従来の科学技術研究の枠を超えた多面的な活動を展開しています。


都市というものは、いったい誰の手によってつくられているのでしょうか?自治体、大企業、建築家や都市計画家といった専門家集団――様々な答えが考えられますが、いずれにせよ街をつくる権限というものは都市のユーザである一般市民に広く分け与えられているのではなく、特定の組織や人々に集中して割り当てられていると言えるでしょう。対してデジタルの世界では、WikipediaやLinuxといった複雑で大規模、かつ信頼性の高いシステムを「みんな」の手でつくり上げる様々な仕組みが機能しています。そして、そのように「みんな」の手でつくられたシステムは、多様な人々の要望を公正に反映できる民主性、プロセスの透明性に根ざした信頼性、急激な変化にも迅速に対応できる柔軟性など様々な利点を備えています。

我々はこのような、デジタルの世界で見られる人工物の生産方式を現実の街づくりへと応用し、市民による自発的な問題解決や民主的な合意形成の積み重ねを通して絶えず編集・改善されていく未来の都市、すなわちWikitopiaを実現しようとしています。

これはただの夢物語に聞こえるかもしれません。しかし住民が自発的に街をつくっていく試みには、たとえばグラフィティなどのストリート・アート、空き地を庭園に変えるゲリラ・ガーデニング、米国西海岸発のパークレット(道路脇の路駐スペースの一部を小さな公園につくり変える活動)など世界各地に様々な先行例が存在し、近年は制度の整備も進み、国内外の街づくりにおけるひとつの新たな潮流を形成しています。つまり住民が、地域にこれが欲しい、これが必要だといったアイデアを思いついたときに、それを自らの手で、あるいは集団で協力して実現できる仕組みが次々と登場しているのです。

このような参加型の街づくりは、現状まだまだローテクかつ小規模な活動に止まっています。我々は最先端のテクノロジーを駆使することによって、こうした活動への参加にまつわる様々な障壁(心理的ハードル、時間的拘束など)を取り除き、「みんな」の手による街づくりを一気にスケーラブル、すなわち平凡でありふれた、当たり前の活動へと押し上げていくことを目指しています。街を歩けば「みんな」でつくった物や空間が次々と目に入る都市、それがWikitopia Projectが目指す未来都市の姿です。


Wikitopia Projectの活動の中心は、上記のような参加型の街づくりを加速する新しいテクノロジー群の開発です。我々は、Wikitopiaの実現を目指す上で以下の4つのカテゴリに属する技術群が特に重要な役割を果たすと考えており、それに従って具体的な技術開発の内容を策定しています。たとえば、特段のスキルを持たない人でも街の緑化に貢献できるようにするデジタルファブリケーション技術や、ルールに則った街づくり活動の計画立案を支援するソフトウェア技術などの開発を行っています。

本プロジェクトで開発している技術は、実用レベルに達したものから京都市を含む国内外の都市における街づくりへと応用し、Wikitopiaの実現というゴールに向けて少しずつ歩みを進めていく計画です。また技術開発以外にも、プロジェクトの理念について解説した論文一般メディア向けの文章の発表、Wikitopia International Competitionといったイベントの開催など、Wikitopiaの理論的基盤を構築する活動やプロジェクトについて発信するアウトリーチ活動にも積極的に取り組んでいます。

DIY的な都市のデザイン

3Dプリンティングなど新しい設計・製造技術を用いて、市民によるDIY的な街づくりや自発的な都市の問題解決を支援

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変化し適応する都市環境

先端的なインタフェース技術やロボティクスを用いて、市民のニーズに合わせて動的に変化し適応する都市環境を実現

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街の未来像の共有・体験

拡張現実や仮想現実、その他新しいメディア技術を用いて、市民が街への要望や未来像を視覚化・共有する文化を創出

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円滑な合意形成・意思決定

新しい予測・分析ツールやコミュニケーションツールを用いて、街についての意思決定や問題解決、合意形成を円滑化

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本プロジェクトは主に、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所およびソニー株式会社の資金を基に運営されています。また取り組みの一部には、科学技術振興機構(JST)の公的研究費、各種団体や企業の協賛費も使用してきました。我々は常に新たな協力者や協力機関を探しています。ご興味がございましたら、ぜひこちらのメールアドレス宛にご連絡いただければ幸いです。