WIKITOPIA — RESEARCH

現在Wikitopia Projectでは、主に以下の内容の技術開発を行っています。


Printable Garden

道端に花を植える、昆虫の棲めるビオトープを整備するなど「街に自然を持ち込む」活動は、国内外で広く実施されている参加型街づくりの一形態です。我々は、こうした活動をさらに円滑にするデジタルファブリケーション技術、具体的には多様な植物の育つ水耕栽培(土の代わりに人工的な培地素材を使用する栽培方法)の「庭」を3Dプリントする技術を開発しています。特殊な樹脂素材を用いて細かな三次元メッシュ状の立体物をプリントすることで、土の代替物として機能する人工培地を生成します。プリントした培地の表面に種子を付着させ、水と光、肥料を与え続けると、やがて種子が発芽し植物が育ちます。プリンタにヘッドを追加することで種子の付着も自動化すれば、ソフトウェア上で設計した通りの形状を持ち、設計した通りのレイアウトで植物が育つ「庭」を一括で自動生成することが可能になります。

実験を通して、ハーブ類・野菜・果物・花卉など、様々な植物がこの人工培地上で生育可能であることが確認できています。無毒性のため作物栽培への応用(小型農園のプリントなど)も考えられ、また他の樹脂素材と混成してプリントすることで、将来的には特定の小動物や鳥類、昆虫などの生息環境(蛍の棲める屋上庭園など)を生成することも可能になると考えています。現状、まだ手のひらに乗るような小型の「庭」しかプリントできていませんが、理論上は大型化が可能な技術です。

本技術によって、特段のスキルを持たない人や自由時間の少ない人でも、気軽に地域の緑化活動に参加できるようになると考えています。また、既存手法では実現できない新しい緑化の形や、今までにないやり方で街に自然を持ち込むアイデアの創出につながることも期待できます。都市の自然、都市の生態系を、地域住民が自らの手で編集し改善していく未来社会の実現に貢献します。


dédédé

街に対する意見を共有するという目的に特化したオンライン・プラットフォーム、dédédé(ででで)を開発しています。「ででで」とは「ええで」「あかんで」「なんで」それぞれ最後の一文字をつなげた名称で、ユーザは街の好きなところ(ええで)、あまり好きではないところ(あかんで)、好きでも嫌いでもないが疑問に思うところ(なんで)を、スマートフォンを介して気軽にプラットフォームに投稿することができます。そして互いの挙げた「ででで」についてユーザ間で話し合うことを通して、未来の街や社会のあり方について考えるきっかけを提供します。現在は京都市の西陣地区で試験運用を行っており、近日中の一般公開(まずは国内で公開し、その後多言語対応を経て全世界で公開)を目指しています。

地域の街づくり活動に参加することには(特に新規移住者など、コミュニティとのつながりが薄い人にとっては)一定の心理的ハードルがありますが、我々はdédédéを通して、そこにソーシャルメディアのような気軽さ、裾野の広さを持ち込みたいと考えています。dédédé自体は、街に対する互いの意見を交換するというシンプルな機能に特化したプラットフォームですが、利用を続けることで街に対する見方が変わり、広場の整備や庭園の造成、イベントの運営などより積極的な街づくり活動への興味が自然に湧いてくるような仕組み、すなわち参加型街づくりへの入り口として機能することを期待しています。

※現在、dédédé公式マスコットキャラクター(上図右端)の名前を募集しています。これはというアイデアがございましたら、ぜひこちらのメールアドレスまでご連絡ください。


Sculpted Reality / Ninja Codes

拡張現実(Augmented Reality、AR)は、様々な都市整備活動の結果をその場で擬似的に体験できるようにすることで、街づくり計画の検討や住民間での合意の形成などに役立つと考えられます。屋外用の拡張現実技術は、環境に仮想的な物体(案内用の矢印やアニメのキャラクターなど)を「上乗せ」することに終始したものがほとんどですが、我々はそうした既存技術よりも表現力の高い、建物や道路の自由変形まで行える技術の開発を目指しています。街路樹の植栽、ストリートファニチャーの設置、歩道の拡張、高さ規制の導入など、大小様々な都市整備のアイデアを簡単に視覚化できる未来を実現します。

上記の目標に向けて、主に二種類の技術開発を進めています。

まず、表現力の高い拡張現実は正確な位置認識を必要とするため、都市空間でそれを可能にする新しい二次元マーカー技術を開発しています。位置認識用の二次元マーカーは特徴的な見た目をしており、景観への配慮から大量に屋外空間に配置することは難しいですが、我々は機械にのみ認識できる「見えない」マーカーを開発することでこの問題に対処しています(忍び隠れるコードという意味で、Ninja Codeと呼んでいます)。通常の二次元マーカーと同様、一般的なプリンタで印刷することができ、肉眼には生成時に入力として与えた任意の画像(たとえば木目画像)に見えるため、環境に自然に溶け込ませることができます。

また、パススルー型のAR(カメラ映像を動的に加工してユーザに見せるタイプのAR)を対象に、環境の三次元変形など多様な視覚的効果を作り出せる画像処理技術の開発も行っています。精度の高い位置認識技術の存在を前提としており、前述のNinja Codeと組み合わせて利用することを想定しています。


CyLanguage

参加型街づくりを推進する上では、市民の手による自由な街づくり活動を促すと同時に、そうした活動が法に則り、都市に害をもたらさないことを保証する仕組みを構築することも重要です。欧米の一部都市のように、参加型街づくりの公的制度化が進んでいる地域では、自治体が詳細なルールブックを発行し、それに従って職員が住民側の提案を逐次精査するというプロセスが取られています。しかしこのようなやり方は多大な時間と労力を要し、スケーラブルとは言えません。

我々は、近年注目を集めるRules as Code(RaC)を導入することで、上記のようなプロセスを円滑化することができると考えています。RaCとは、法律や条例といったルールを自然言語に加えて機械が曖昧さなく解釈できる人工言語でも記述することで、相互矛盾のないルール体系の構築や、合法性判定の自動化などを可能にするという概念です。一般的に、RaCで用いられる人工言語は特殊な文法を持ち、専門的訓練を受けた人以外には使いこなすことが困難です。我々は、誰もが容易に読解・記述できる人工言語CyLanguageの開発、およびそれを軸とした万人が利用できるRaC環境の実現を目指しています。

街づくりに関するルールブックを予めCyLanguageで記述しておけば、同じくCyLanguageで書かれた街づくり計画の合法性を自動判定することが可能になります。人手による検証が完全に不要になるわけではありませんが、労力が大幅に軽減されます。市民による自由闊達な街づくり活動が常態化し、かつそれら活動が総体として都市に肯定的な影響をもたらすことが保証される未来を実現します。


AnyLight / Integral Illumination

すでに都市の建物やインフラには、各種センサやディスプレイなど様々なデジタル機器が組み込まれています。いずれは自動運転機構を含むロボティクス技術やプログラムを介して機能を制御できる新素材など、より多様なテクノロジーが都市のハードウェアと一体化し、それにより住民のニーズに動的に適応する、可変性を帯びた都市環境が実現すると考えられます。Wikitopia Projectでは、そうした少し先の未来を見据えた活動も実施しており、その一環として次世代の照明装置AnyLightの開発を進めています。

AnyLightは、スポットライトやシャンデリア、太陽光など、様々な光源の照明効果を一台で模倣できるパネル型の照明装置です。3Dディスプレイなどに用いられる基本原理を照明目的に転用した光学技術(Integral Illumination)を用いることで、装置表面から射出される光線の細かな制御を実現しており、それを用いてパネルの背後に任意の光源が存在している様子を再現します。仮に屋内空間の天井に本装置を敷き詰めれば、必要に応じて様々な種類の光源を、自由な位置に、好きな数だけ頭上に出現させることができます。短期的には撮影スタジオなど特殊な環境における利用が主になると思われますが、長期的には世の中の照明の大部分が本装置で置き換えられると考えています。日常生活における人工光の使われ方を大きく変える技術です。

本装置が都市環境の隅々に設置された未来においては、「今日はお祭りだから、色とりどりの華やかな光で街を照らそう」「野生生物の生活を妨げないよう、夜間は光の色や方向を調整しよう」といったように、地域のニーズ、住民のニーズに合わせた詳細な照明計画を策定することが可能になります。