以下は、Wikitopia Projectで取り組んでいる具体的な研究開発活動の一覧です。現在、最も注力しているのは街づくりプラットフォーム「dédédé」の開発と運営、およびそれを拡張現実や人工知能など最新の技術を用いて発展させた次世代プラットフォーム「Wikitopia OS」の開発です。加えて、都市の緑化を3Dプリンティングを用いて支援する技術「Printable Garden」の開発など、市民が自らの手により直接的に都市を「編集」できる未来の実現を目指し、より長期的な視点に立った基礎研究色の強い技術開発も行っています。これらの活動の成果は、ソースコードのオープンソース化、一般社団法人ウィキトピア・インスティテュートあるいはその他の法人・団体を通した製品化やサービス展開などといった形で社会実装します。
dédédé(ででで)
街に関する様々な意見を気軽に共有し合うためのウェブ上のプラットフォームです。ユーザは街の好きなところ(ええで)、好きではないところ(あかんで)、疑問に思うところ(なんで)を、テキストや写真、音声など複数のメディアを用いて投稿することができます。利用を続けることでユーザの街に対する見方が変わり、街づくり活動への参加に対する興味が自然と湧いてくるような仕組みの構築を目指しています。また投稿データは、街に関する市民の生の声として自治体の都市計画などにも有効に活用できると考えています。無償で利用できますので、ぜひこちらからアクセスしてみてください。
Wikitopia OS
dédédéと拡張現実(メガネ型デバイスではなく、タブレットやスマートフォンなどを用いた拡張現実を対象としています)を組み合わせることで、街に関する市民の意見、改善案や未来像、その他街にまつわる様々な情報を、都市の風景と一体化した形で提示する次世代街づくりプラットフォームです。従来の拡張現実よりも高い表現力を持ち、建物の高さ規制の導入、幹線道路の歩道拡幅工事など、大規模な環境の変化を伴う街づくり施策の結果も視覚化することが可能です。また随所に人工知能を活用し、多様なステークホルダーの要望や環境への影響などを考慮した街づくり計画の立案を支援します。
以下は、Wikitopia OSを構成する要素技術の一部です。
Ninja Codes
ニューラルネットを介して任意の画像に若干のノイズを加えることで、位置認識マーカーとして機能する画像(Ninja Code)へと変換する技術を開発しています。屋外用の拡張現実では、デバイスの正確な位置認識を行うことの難しさがしばしば問題になりますが、本技術により低コストかつ高精度、さらには景観やプライバシーにも配慮した位置認識を、広範な環境で実現することが可能になります。
- 参考:
- [1] Imoto, Y., Kato, S., Takeuchi, Y. Stealthy Location Tracking with Ninja Codes. SIGGRAPH Asia 2024 Emerging Technologies (To appear).
Civic AI
プラットフォーム上に収集された市民の意見を(少数派意見の埋没を防ぐなどの配慮をしつつ)自動要約することによる「街の総意」の抽出、地域の抱える課題の発見および解決策の自動生成などを行う人工知能を開発しています。加えて、エージェント技術を用いて都市全体やその各要素に仮想人格を持たせ、市民と直接対話することを可能にする仕組みの開発にも取り組んでいます。
Wikitopia Model
オーストラリア・イタリアの研究者と共同で、街づくりへの活発な市民参加を軸に据えた新たな都市の数理モデルを構築する試みを進めています。近年注目を集める「15 minute city」の概念を、今後都市に関する収集可能なデータが量と種類の両面において増大することを想定して拡張したものであり、様々な街づくり施策の効果を定量的に分析あるいは予測することが可能になります。
TrueTalk
市民間での合意形成や意思決定を支援する、テキストベースの新しいコミュニケーションツールを開発しています。論理学の知見を援用したもので、曖昧さのない理知的な対話を行うようユーザを自然に誘導する仕組み(我々はこれを「強化言論」と呼んでいます)を搭載しています。直感的で習熟しやすいインタフェースを備えた、万人が利用できるツールの実現を目指しています。
Printable Garden
道端に花を植えるなど「街に自然を持ち込む」活動は、国内外で広く実施される、最も一般的な参加型街づくり活動のひとつです。我々は、こうした活動をさらに円滑化するデジタルファブリケーション技術、具体的には土の代替物として機能する特殊な樹脂素材を用いて、多様な植物の育つ「庭」を3Dプリントする技術を開発しています。ソフトウェア上で設計した通りの形状を持ち、設計した通りのレイアウトで植物が育つ「庭」を一括で自動生成することが可能です。まだ研究段階の技術ですが、将来的には特定の小動物や鳥類、昆虫などの生息環境(蛍の棲み家となる屋上ビオトープなど)も生成できるようになると考えています。
- 参考:
- [1] Takeuchi, Y. 3D Printable Hydroponics: A Digital Fabrication Pipeline for Soilless Plant Cultivation. IEEE Access, 2019.
AnyLight
スポットライトやシャンデリア、太陽光など、多様な光源の照明効果を一台で模倣できるパネル型の照明装置を開発しています。仮に屋内空間の天井に本装置を敷き詰めれば、必要に応じて様々な種類の光源を、自由な位置に、好きな数だけ頭上に出現させることが可能になります。元々は、「お祭りの日は色鮮やかな光で街を照らそう」など住民がニーズに合わせて制御できる新しい公共照明を作る試みとして出発したものですが、開発にあたっては特に用途を限定せず、幅広い場面で利用される汎用的な次世代照明技術の実現を目指しています。短期的には、公共空間ではなく映像撮影スタジオなどへの応用が主になると考えています。
- 参考:
- [1] Takeuchi, Y. and Nagamine, K. Theory and Implementation of Integral Illumination. IEEE Access, 2022.